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転移性肺がんの基礎知識


内容一覧


1. がんとは
4. 肺の体積
7.転移性肺がんのでき方
10.転移性肺がんの診断
13.転移性肺がんの治療方針
16.転移性肺がんの手術
2. 転移とは
5.気管と気管支の解剖と役割
8.手術後の転移性肺がん
11.原発性か転移性がんか
14.転移性肺がんの症状
17.経過観察
3. 肺の解剖と役割
6.転移性肺がんとは
9.原発性と転移性がん
12.原発性と転移性肺がんの区別
15.転移性肺がんの治療
18.心理的支え

1. がんとは


すべてのがんは細胞に発生します。
体は多くの種類の細胞より構成されています。普通、体を健康に保ち、適切に機能するのに必要なだけ、多くの細胞が育ち、分裂し、生産されます。そして、古くなると壊れてしまいます。しかし、この過程は時々狂うことがあります。新しい細胞は必要でないのに細胞が分裂を続けることがあるのです。余分な細胞はかたまりを形成します。このかたまりががんです。
がんは過度な細胞分裂に起因している細胞の異常なかたまりです。がんの悪いところは、しばしば体のほかの場所に転移(てんい)を起こすことです。転移があることにより治療は難しくなります。がんは体に有益な機能を全くしません。がんは別名、悪性腫瘍(あくせいしゅよう)といいます。細胞分裂による異常なこのかたまりのなかで、生命をおびやかさないものを良性腫瘍(りょうせいしゅよう)といいます。
まとめると、がんとは制御や規則なしに分裂する細胞のかたまりで、転移を起こす可能性がある病気です。がんのことを悪性腫瘍とも呼びます。


2. 転移とは


がんの細胞は異常で、制御や規則なしに分裂します。がん細胞はまわりの組織に侵略し破壊します。また、がん細胞はかたまりから分離して、血流またはリンパ系に入り、血流およびリンパ系を通じて体の他の部分に広がる可能性があります。これはがんが元のかたまりから体の他の部分に新しいがんを形成することです。
このようにしてがんが体の1つの部分から別の部位へと広がることを転移と言います。転移したがん細胞は元のがん細胞と同じです。大腸がんや乳がんが肺に転移しても肺がんの細胞になるわけではなく、大腸がんや乳がんの細胞のままです。
なお、リンパ系とは細菌や他の病気と戦う白血球を作り、蓄えて、運ぶ組織と器官です。リンパ系は、骨髄(こつずい)、脾臓(ひぞう)、胸腺(きょうせん)、リンパ節、そしてリンパ液と白血球の流れる細い管です。この管は網目のように、体中のすべての組織に入ります。リンパ液とは、けがをしたときにでる黄色い液体です。


3. 肺の解剖と役割


肺は呼吸器系の臓器の一つです。
肺は、円錐形の器官で、空気が入っているのでスポンジのような感触の臓器です。肺は胸の左右に存在します。葉(よう)と呼ばれている部分に分かれています。葉とは肝臓、肺、乳腺、脳などの器官の部分を表す用語です。呼吸器系とは、呼吸に関連する器官のことです。これには鼻、喉頭(いんとう)、喉頭(こうとう)、気管、気管支、肺があります。
右肺には3つの葉があり、それぞれ上葉、中葉、下葉といいます。左肺は2つの葉を持っています。上葉、下葉です。右肺は左肺より少し大きいです。



右肺には10個の区域があり、左肺には9個の区域があり、合計で19個の区域です。



肺は呼吸という仕事をしています。息を吸い込むと、肺は空気に含まれた酸素を取り入みます。酸素は細胞が生きていくために、そして正常な機能を実行するために必要です。息を吐いたときには、肺は体の細胞の廃棄物である二酸化炭素を排出します。この酸素と二酸化炭素の直接の交換は、肺にある肺胞(はいほう)という小さな無数の袋で行われています。肺胞という袋に入った酸素は、袋の壁にある毛細血管の網に入り、毛細血管から二酸化炭素が肺胞に出て行くのです。


4. 肺の体積


右上葉には3個の区域があり、肺の体積を100%とすると、右肺上葉の体積は100%×3/19=16%です。このように計算すると各肺葉の体積は右のようになります。
この値は、絶対的なものではありませんが、肺を切除したときに残りの肺の容量を計算するときに一つの目安になります。
肺の体積
右上葉 16% 左上葉 26%
右中葉 11%
右下葉 26% 左下葉 21%
右肺  53% 左肺  47%

5.気管と気管支の解剖と役割



気管とは、吸い込んだ空気が口とのどを通り、肺へ入るため通路に当たる太い管です。気管支とは、気管が左右に分かれた後の管で、さらに枝分かれして肺胞という無数の小さな袋に達します。気管と気管支という通路を介して肺に空気を送ります。気管と気管支は呼吸器系の臓器の一つです。呼吸器系とは、呼吸に関連する器官のことです。これには鼻、咽頭、喉頭、気管、気管支、肺があります。
気管や気管支は、空気の流れ道であるとともに、粘液を分泌し、ほこりや細菌を捕らえます。この粘液は食道に飲み込まれるか、痰(たん)となって排出されます。



6.転移性肺がんとは


大腸がんや腎がんの細胞は血液に入り他の場所に移動して、そこで成長を開始します。これが転移(てんい)です。がんの治療が複雑で難しいのは転移を起こすためです。
がん細胞は血液に入り心臓に戻ります、その後肺に入ってガス交換を行い、今度は全身に流れていきます。がん細胞の多くは肺を通過するので、肺への転移がしばしば経験されます。これが転移性肺がんです。
ここで重要なのは、大腸がん細胞は肺に転移しても肺がん細胞にはならないことです。大腸の細胞ががん化してがん細胞になるのですが、肺に移動しても肺の細胞に変化するわけではありません。これは日本人の夫婦がアメリカに移住して、子供が生まれると日本人の子供が生まれることを考えると理解しやすいでしょう。


7.転移性肺がんのでき方


大腸がんや腎臓がんのがん細胞は、がんから剥がれてリンパ管に入り流れてリンパ節に達し、リンパ節転移を起こします。また、がん細胞はがんから剥がれて血管に入り血液とともに体内を流れ、体の他の場所に転移を形成します。といっても実際、がん細胞がリンパ管や血流に乗って流れていっても、環境が変わるので生き延びるのは難しいです。しかし、多くのがん細胞が流れていれば、中には生き延びて成長するがん細胞もいるのです。
体にある血液は心臓に還流し、その後、肺に流れ込んでガス交換を行い心臓に還ります。がん細胞が血液に混じって肺に達して生育すれば、肺に転移性肺がんが出現します。


8.手術後の転移性肺がん


例えば、大腸がんの手術後2年目に転移性肺がんが起きたときのことを考えてみます。大腸がんはすでに手術を終わったので、大腸がんは存在しません。この状態で大腸がんの転移が突然肺に発生するのではありません。大腸がんの手術を受けた時点に、すでに肺に小さな転移性肺がんがあったと考えられます。転移性肺がんがあっても、胸部レントゲン検査や胸部CT検査などで転移性肺がんが発見されなかったのです。このような場合は、“大腸がんが肺に再発した”と表現しますが、実際は“当時は発見されなかった転移性肺がんが、今回は増大して発見された”ということなのです。


9.原発性と転移性がん


転移したがんを転移性がんといい、肺に転移したときは転移性肺がんといいます。一方、最初にできたがんを原発性がんといいます。例えば大腸にがんができれば大腸がんで、原発性大腸がんともいえます。大腸がんが肺に転移すると、転移性肺がんとよび、元の大腸がんが原発です。肺に肺がんができると原発性肺がんです。これが肝臓、骨、肺に転移すると、転移性肝がん、転移性骨がん、転移性肺がんといいます。


10.転移性肺がんの診断


肺への転移といっても様々な様相を呈します。肺に一つのかたまりを形成する場合、肺に無数のかたまりを作る場合、胸水がたまる場合、肺のリンパ節が大きくなる場合などです。
診断には胸部エックス線検査と胸部CT検査、PET検査などが行われます。腫瘍マーカーの検査も行われますが、原発性がんと同じ腫瘍マーカーが有効です。これは転移性肺がんが原発性がんの性質をそのまま持っているためです。
転移性肺がんのときは、原発性がんのあった部位の再発の有無も重要で、原発性がんの検査も行います。
また、骨や肝臓や脳などの他の臓器への転移の検査も行います。


10−A.転移性肺がんを発見する検査
症状の原因を見つけるために、医師は患者さんの今までにかかった病気や喫煙状況、環境や職業、家族にがんがあるかを確認します。医師はさらに身体を診察します。
転移性肺がんの有無や様子、リンパ節転移の有無を検査するために、最初に胸部エックス線検査を行います。続いて胸部CT検査を行い病変の場所を詳しく調べます。また参考のために、血液検査を行い、腫瘍マーカーを検査します。
胸部MRI検査も行うことがあります。この検査は転移性肺がんでは使用しないことも多いです。またペット(PET)検査もときに行われます。
転移性肺がんの存在や様子、リンパ節転移の有無を検査するために以下の検査があります。


<肺がんの発見検査>

胸部エックス線検査 胸部を正面と側面より見る検査。心臓や骨と重なった部位に病変があると発見しにくいです。また、小さな病変も見えないことが多いです。
胸部CT検査 エックス線を使用し、コンピュータで計算して体内の詳細な画像を作成する方法です。CTとはコンピュータ断層撮影(コンピューテド・トモグラフィー)の略です。胸や肺を輪切りにして詳細に検討できます。
胸部MRI検査 磁場の中に入り、体内の水素分子の振動を調べて、コンピュータで計算し、体内の詳細な画像を作る方法です。 MRIとは磁気反響画像(マグネチック・リゾナンス・イメージ)の略です。影がCTよりぼけるので使用することは少ないですが、肺がんと血管や肋骨や背骨との関係を観察する、あるいは腫瘍(しゅよう)の性状を検討するのに用います。
PET検査 シンチグラムの一種で、ブドウ糖につけた少量の放射性物質を静脈に注射します。ブドウ糖ががんに集まるので、がん病変の有無や位置が分かります。脳は判断できません。なお、シンチグラムとはアイソトープを注射し、病気の部位に集まったアイソトープをエックス線のフィルムに記録することにより病変の有無や位置を知る方法です。
腫瘍マーカー 腫瘍(しゅよう)マーカーはがんを持った患者さんの血液、尿、身体組織中に、正常より高い量にしばしば検知することができる物質です。腫瘍マーカーは、腫物自体によって、あるいはがんの存在で身体によって生産されます。


参考)


<腫瘍マーカー>

解説 腫瘍(しゅよう)マーカーはがんを持った患者さんの血液、尿、身体組織中に、正常より高い量にしばしば検知することができる物質です。腫瘍マーカーは、腫瘍自体によって、あるいはがんの存在やある良性の状態で身体によって生産されます。
なお、腫瘍とは細胞の増殖により起こる固まりを指します。悪性腫瘍はがんのことです。肺がん、骨肉腫、白血病などがあります。良性腫瘍はいぼ(疣)のような、がんではないかたまりです。
がんの発見や診断をするために、腫瘍マーカー値の測定は有用です。しかし、腫瘍マーカー値の測定だけでは次の理由のためにがんを診断するのには十分ではありません。なぜなら、腫瘍マーカー値は良性の状態(がんでない)で上昇することがあります。腫瘍マーカー値はがんを持ったすべての人、特に病気の初期段階で上昇するとは限りません。また、多くの腫瘍マーカーは特定のがんに特有ではありません。腫瘍マーカーの値は、複数のがんで上昇することがあります。
腫瘍マーカー値はがん診断における役割に加えて、医師の治療計画を補助するために治療前に測定されることがあります。がんでは、腫瘍マーカー値が、病気の広がり(病期)を反映し、病気が治療にどれくらいよく効くかを予測することに役立ちます。患者さんの治療効果をみるためにも有効です。腫瘍マーカー値が下降するか正常に戻る場合、それはがん治療がうまく効いていることを示すかもしれません。腫瘍マーカー値が上昇する場合、それはがんが成長していることを示すかもしれません。治療が終わった後、再発を調べる経過観察の一端として腫瘍マーカー値の測定は使用されます。
つまり、腫瘍マーカーの使用は主に、がんの発見、がんの治療に対する効果を評価し、再発を発見することです。
有効な腫瘍マーカー

癌の種類によりさまざまな腫瘍マーカーがあります。

肺がん 縱隔腫瘍の胚細胞腫瘍
CEA 肺がん CEA
HCG
AFP
CA19-9
SLX,CEA 腺がん
SCC、シフラ 扁平上皮がん
NSE、ProGRP 小細胞肺がん

  • CEA(がん胎児性抗原)
    CEAは、通常、ほとんどの健康な人々の血液中に少量見つかります。がんの人でも、がんでない人でも上昇します。CEAの使用は主に大腸がんを発見することにあります。大腸がんの治療の後に再発を発見するためにも、CEAは使用されます。
    肺がんなどでこの腫瘍マーカーの高い値を示すことがあります。
    高いCEA値は、さらに炎症性腸疾患、膵臓炎および肝臓疾患で生じることがあります。喫煙によって、CEAが高い値になることがあります。
  • NSE(神経細胞特異的エノラーゼ)
    NSE(神経細胞に特有のエノラーゼという酵素)は神経芽(しんけいが)細胞腫、小細胞肺がんなどのがんで検出されます。腫瘍マーカーとしてのNSEに関する研究は、最初に神経芽細胞腫と小細胞肺がんで行われました。これらの2つの病気でのNSE値の測定は、治療に対する効果ばかりでなく、病気の進行度に関する情報を得ることができます。


10−B.転移性肺がんを診断する検査
上記の転移性肺がんを発見する検査では、転移性肺がんの確定診断はできません。転移性肺がんを確定診断するということは、がん細胞を顕微鏡で確認し、原発癌と同じことを確認することです。つまり、がんの一部をどこからか採取しなくてはなりません。
転移性肺がんの確定診断のための検査には痰の細胞診があります。これは痰を提出すれば検査ができるので負担は少ない検査です。
気管支鏡(きかんしきょう)検査は内視鏡の検査です。針生検(はりせいけん)は胸の外から針を刺す検査です。胸水があれば胸腔穿刺(きょうくうせんし)を行い胸水の病理検査をします。
これらの検査が確認できなければ、胸腔鏡(きょうくうきょう)や開胸の手術で検査を行います。施行する頻度は少ないですが、縦隔鏡(じゅうかくきょう)という方法もあります。
転移性肺がんの確定診断のために以下の検査があります。


<転移性肺がんの確定診断検査>

痰の細胞診
(さいぼうしん)
この検査は痰(たん)を提出するだけでよいので、患者さんの体に負担が少ないよい検査です。深い咳による痰(肺の粘液)を提出し、痰の中にある細胞の顕微鏡検査を行います。肺の根元のがんの診断に有効です。
気管支鏡検査
(きかんしきょう)
内視鏡の一種である気管支鏡を口または鼻に入れ、気管を通り抜けて気管支や肺を調べます。この管を通して、痰または小さい組織標本を収集します。採取したものを顕微鏡検査し、肺がん細胞を探します。肺の根元のがんだと、がんを直接見ながら採取できます。奥のがんだとレントゲンの透視をしながら検査を行わないと場所が分かりません。
針生検
(はりせいけん)
組織の標本を採取することを生検といいます、組織の標本を採取するために、胸部CTを用いて場所を確認し、胸の外から針を腫瘍に挿入することです。肺の根元にある肺がんは大きな血管や心臓があるので危険で行えません。また、肩甲骨の下にある肺がんは骨に妨害されて刺すことができません。採取したものを顕微鏡検査し、肺がん細胞を探します。
胸腔穿刺
(きょうくうせんし)
がん細胞を調べるために、針を使って、胸水(きょうすい)を採取します。2本の肋骨の間に挿入した針で胸腔から液体を除去することです。胸水とは肺の周りにたまった液体です。採取したものを顕微鏡検査し、肺がん細胞を探します。
胸腔鏡手術
(きょうくうきょう)
全身麻酔をかけて、胸に穴を開けて行う手術です。病変の組織を採取します。開胸手術に較べて、傷が小さくて済みます。採取したものを顕微鏡検査し、肺がん細胞を探します。
開胸手術 肺がんを診断するために、時に胸を開く手術が必要です。採取したものを顕微鏡検査し、肺がん細胞を探します。
縦隔鏡
(じゅうかく)
縦隔は左右の肺の間の領域です。この領域の器官は、心臓、大血管、気管、食道、気管支、リンパ節を含みます。縦隔鏡は胸のリンパ節に広がっているがんを確認するのに用います。内視鏡(スコープ)と呼ばれる、明かりの付いた観察器具を用いて、胸の中央(縦隔)と近傍のリンパ節を調べます。縦隔鏡検査では、内視鏡は首を小切開して挿入します。この場合患者さんは全身麻酔です。採取したものを顕微鏡検査し、肺がん細胞を探します。


10−C.転移性肺がんの進行度検査
転移性肺がんと診断したら、進行度を知る必要があります。転移性肺がんはしばしば肺の別の場所、脳、骨、肝臓、副腎に広がります。病気の進行度を知ることが、治療計画に必要です。
転移性肺がんの進行度を調べるために、CT検査、MRI検査、腹部超音波検査(エコー)、骨シンチグラムが行われます。ペット(PET)検査や縦隔鏡が行われることもあります。
転移性肺がんの進行度診断のために以下の検査があります。


<肺がんの進行度検査>

CT検査 エックス線を使用し、コンピュータで計算して体内の詳細な画像を作成する方法です。CTとはコンピュータ断層撮影(コンピューテド・トモグラフィー)の略です。頭部CT検査は脳への転移を検査します。胸部CT検査は肺のほかの部位への転移やリンパ節転移を検査します。腹部CT検査は肝臓や副腎(ふくじん)への転移を検査します。骨CT検査は骨への転移を検査します。
MRI検査 磁場の中に入り、体内の水素分子の振動を調べて、コンピュータで計算し、体内の詳細な画像を作る方法です。MRIとは磁気反響画像(マグネチック・リゾナンス・イメージ)の略です。頭部MRI検査は脳への転移を検査します。胸部MRI検査は肺のほかの部位への転移やリンパ節転移を検査します。腹部MRI検査は肝臓や副腎への転移を検査します。骨MRI検査は骨への転移を検査します。
超音波検査
(エコー)
音波の体内での反響による検査。肝臓、腎臓、副腎、すい臓などを検査します。
骨シンチグラム シンチグラムの一種で、少量の放射性物質を静脈に注射します。それは血流を介して進み、異常な骨成長の領域に集まります。これを、エックス線のフィルムに記録すると骨の病変の有無や位置が分かります。骨シンチグラムではアイソトープを注射して、骨に集まったアイソトープをエックス線のフィルムに記録して、病変の有無や位置を診断します。
PET検査
(ペット)
シンチグラムの一種で、ブドウ糖につけた少量の放射性物質を静脈に注射します。ブドウ糖ががんに集まるので、がん病変の有無や位置が分かります。なお、シンチグラムとはアイソトープを注射し、病気の部位に集まったアイソトープをエックス線のフィルムに記録することにより、病変の有無や位置を知る方法です。
胸腔鏡手術
開胸手術
肺がんを診断するために、胸腔鏡手術や、時に胸を開く手術が必要です。採取したものを顕微鏡検査し、肺がん細胞を探します。
縦隔鏡 縦隔は左右の肺の間の領域です。この領域の器官は、心臓、大血管、気管、食道、気管支、リンパ節などです。縦隔鏡は胸のリンパ節に広がっているがんを確認するのに用います。内視鏡(スコープ)と呼ばれる、明かりの付いた観察器具を用いて、胸の中央(縦隔)と近傍のリンパ節を調べます。縦隔鏡検査では、内視鏡は首を小切開して挿入します。この場合患者さんは全身麻酔です。採取したものを顕微鏡検査し、肺がんがリンパ節に転移しているかどうかを調べます。

11.原発性か転移性がんか


肺に影が発見されたときに、転移性肺がんか原発性肺がん(肺からでた普通の肺がん)か結核などの炎症の影かの区別が問題になります。胸部レントゲン検査や胸部CT検査を行い、腫瘍マーカーを参考にして、がんか炎症かを考えます。気管支鏡検査やCTによる肺針生検を行うこともあります。
この結果で、影ががんか炎症かの区別はわかります。しかし、影の場所が検査しにくいときや、影が小さいときには気管支鏡や針生検を行っても診断が難しいことがしばしばあります。
がんという診断がついても、転移性肺がんか原発性肺がんかの区別は難しいです。今までにがんを患ったことのない方では、転移性肺がんの可能性は少なく、原発性肺がんを考えます。複数の病変が認められたときは転移性肺がんを考えた方が良いかも知れません。
診断を行うためには、手術で病変を全て切除して、顕微鏡的に検査することが最も確実です。しかし、ここまで行っても判断に困ることがあります。


12.原発性と転移性肺がんの区別


原発性肺がんか転移性肺がんかの区別が難しいことがあります。がんにかかったことのない方の肺がんの多くは原発性肺がんです。他のがんの治療後の方は、転移性肺がんと原発性肺がんの双方の可能性があります。この区別を行うのはしばしば難しく、胸腔鏡や開胸手術を行った結果、判定することもしばしばあります。


13.転移性肺がんの治療方針


転移性肺がんと診断したら、元のがん(原発巣)の種類により治療方針が重要です。原発巣(元のがん)の種類が抗がん剤で治療できるがんなら、抗がん剤治療が選択されます。
抗がん剤が効かない種類のがんなら手術や放射線治療を考えます。
転移性肺がんの治療方針を決めるときには、さらに検査を行う必要があります。元のがん(原発巣)が発生した近傍にがんが再発していないかどうかです。原発巣が大腸がんなら大腸の検査が必要です。原発巣が子宮がんなら産婦人科の検査が必要です。転移性肺がんは、すでに肺転移があるので、他の場所に転移が存在するかどうかも重要です。この検査は、肺以外の肝臓、脳、骨の検査が行われます。CTかMRIかエコーかPETがしばしば行われます。これらの検査で肺以外にがんが見つからなければ手術を考えます。
転移性肺がんの手術を決めるときには、原発巣(元のがん)の部位の治療がうまく終わっていることも必要です。患者さんが手術を受けても耐えられるだけの体力があることも重要です。
転移性肺がんの手術を行った後の経過が良い条件は、原発巣の性格に左右されます。また、転移性肺がんの個数が少ないこと、原発巣の手術を行ってから転移性肺がんが発見されるまでの期間が長いこと、転移性肺がんの進行が遅いなどです。


14.転移性肺がんの症状


転移性肺がんは症状がでにくい疾患です。症状がなくても安心はできません。
転移性肺がんの症状には、1週間しても改善しない悪くなる咳があります。これは肺がんが気管支や肺を刺激してでる症状です。肺がんが気管支に傷をつければ血痰(けったん)も起こしやすくなります。肺がんが気管支を閉塞すると、ぜいぜいした息やその先に肺炎、気管支炎を起こしやすくなります。 転移性肺がんが肋骨や肋間神経に刺激を与えれば持続する胸の痛みが出現します。太い気管支を閉塞する、あるいは胸水がたまって肺が小さくなれば呼吸困難がでます。転移性肺がんが声帯の運動を支配する反回(はんかい)神経を冒すと、しわがれ声になります。
転移性肺がんが大静脈を圧迫すると、血液の戻りが悪くなり、首や顔が腫れます。これを上大(じょうだい)静脈症候群といいます。
転移性肺がんが進行し体力がなくなると、食欲減退や体重減少や疲労感が出現します。これらの症状は転移性肺がんだけでなく他の病気にもみられます。
このような症状のどれかがあれば、医師の診断を受けることが重要です。


15.転移性肺がんの治療


治療方針を考えるために、どこからの転移性肺がんか、原発性がんはどこで、現在の再発はないか。ほかの場所への転移がないか、が重要です。
また、転移性肺がんの状況として、いくつあるか無数にあるか、肺の根元にあるか末梢にあるか、胸水がたまっているか、が重要です。現在の体力がどのくらいかも必要です。
体力があって、最初にがんができた部位にがんの再発がなく、転移性肺がんが切除可能なら手術による治療を考慮します。
手術の方法として、転移性肺がんの部位や大きさなどにより、肺の部分切除術、葉切除術、片肺全摘術などが行われます。アプローチとしては病変の状況により胸腔鏡手術、胸腔鏡補助手術、開胸手術が行われます。


参考)
肺がんの治療方法には以下の方法があります。


<転移性肺がんの治療方法>

外科療法 手術は、がんを取り去る手術です。手術方法は、転移性肺がんの位置によって異なります。肺の小さい部分だけを取り去る手術は、区域切除または楔状(きつじょう)切除と呼ばれます。外科医が肺葉(はいよう)を取る時には、葉切除(ようせつじょ)と呼ばれます。肺全摘術(はいぜんてきじゅつ)は片側全体の肺の除去です。
化学療法 化学療法は、体中のがん細胞を消滅するために抗がん薬を使用することです。がんが肺とともに取り去られた後でも、がん細胞は近い組織または体の他の場所に存在するかもしれません。化学療法は、がんの成長を制御するか、または症状を軽くするために用いられます。抗がん剤は静脈注射あるいはカテーテルにより直接に与えられます。内服の抗がん剤もあります。
分子標的薬 抗がん薬の一種とも考えられる。がん細胞の、増殖、浸潤、転移に関わる仕組みが分かってきている。これにかかわる分子を標的に阻害する目的で開発した、がんの治療を行う薬。イレッサ(ゲフィチニブ:上皮成長因子)、アバスチン(ベバシズマブ:血管新生因子)がある。一般名の付け方として、モノクローナル抗体は語尾をマブ (mab) 、小分子薬は語尾にイブ(ib=阻害薬)をつける。
放射線療法 放射線療法(ほうしゃせんりょうほう)は、がん細胞を殺すために、高エネルギー光線を使用します。放射線療法は限局された領域に向けられて、その領域にあるがん細胞に効果を及ぼします。放射線療法は、がんを縮小するために外科手術の前に、または手術した領域に残るがん細胞を全滅させるために外科手術の後で用いられます。また最初の治療として、しばしば化学療法と併用して、放射線療法を用います。放射線療法は呼吸困難などの症状を軽減するためにも用いられます。肺がんを治療するための放射線はしばしば機械から放出されます(外照射)。がんの中またはがんの近くに直接置かれた放射性物質の小さな入れ物から、放射線を放出することもできます(内照射)。
光線力学療法
(PDT)
光線力学療法(PDT)は、レーザー療法の1種ですが、血管に注射して体中の細胞に吸収される特別な化学薬品を使用します。化学薬品は正常な細胞からは急速に消えますが、がん細胞には長時間とどまります。がんに向けられたレーザー光線は化学薬品を作動させて、それを吸収したがん細胞を消滅します。光線力学療法は、肺がんの症状を減らすために用いられます。また、光線力学療法は、非常に小さい肺がんの治療するために用いられます。

16.転移性肺がんの手術


手術方法は転移性肺がんの場所、大きさ、個数、片側肺か両側肺かなどに応じて変わります。
肺野型の病変で肺の表面にあれば、胸腔鏡手術で肺の部分切除術を行います。病変が複数のときや、大きなとき、肺の深い場所にあるときは、胸腔鏡補助手術、開胸手術を行って、肺部分切除術、葉切除、葉切除およびリンパ節郭清、片肺全摘術などを行います。
両側肺にあるときは、同日に両方の肺の手術を行うこともありますし、片側だけ手術を行い、その後経過をみて反対側の手術を考えることもあります。


転移性肺がんの手術は背中からわきにかけて大きく皮膚を切開して病変に達して行う従来からの方法があります。当院で主に使用するわきを中心に皮膚を切開して行う方法、開胸に、胸腔鏡補助をして行う方法があります。
胸腔鏡の良いところは、カメラの先端にライトがついていることです。ライトのおかげで小さな穴から手術を行えるのです。ライトがなければ中は真っ暗です。開胸手術時に、陰になって見にくい場所や暗くて見にくい場所を、胸腔鏡補助手術は見やすくできます。そして、開胸に胸腔鏡を併用した胸腔鏡補助手術では、通常のような大きな傷でなくても手術が可能なことが多くなります。
非常に難しい手術では、大きな開胸に胸腔鏡を併用します。また、比較的行いやすい手術では傷を小さくして胸腔鏡補助手術を行います。
胸腔鏡補助手術の利点は手術の傷が従来の方法と較べると小さく、手術の後の痛みが少なく、早期に退院が可能であることです。欠点は傷が小さくなると、とっさの対応が難しいことです。
肺がんの標準的手術では、右肺上葉に肺がんがあると、青色の右肺上葉と茶色の番号のリンパ節を切除します。



17.経過観察


肺がん治療後の経過観察は非常に重要です。定期的な検査により、体調の変化に気づくこともできるし、もしがんが再発または新しいがんができたならば、早い時期に治療できるでしょう。検査は身体検査、胸部エックス線、血液検査です。
予定された外来予定日以外でも、肺がんの患者さんは小さな問題でも出現したらすぐ医師に報告するべきです。


18.心理的支え


がんなどの重い病気と共に生きるには勇気が必要です。身体のことや医学的な挑戦に対処する他に、がんを持つ人々は、生きることを難しくする多くの心配事、感情、関心事に直面しています。がんを持っている感情的で心理学的な重荷へ注目することは重要であり、周囲の協力が必要です。


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