学術情報センター図書館では、このたびシンポジウム「第2回 図書館と電子ジャーナル」を開催しました。
第1回 (平成17年 (2005年) 3月開催)では、本学における電子ジャーナルの契約形態、利用統計、購読費値上がりへの対応について報告し、参加者をはじめ学内の皆様からご意見をいただくことができました (第1回の概要は本センター報2005年5月号およびイントラネットに掲載 http://j-net.jikei.ac.jp/~micer/ejsympo01.htm)。
第2回は、2006年の外国雑誌購読誌選定について、学術雑誌のプリント版から電子版への移行に対応した今後の雑誌購読のあり方も含めて、図書館委員会にて検討していることを報告し、ディスカッションの機会をもつことを目的に開催いたしました。
第1回 (平成17年 (2005年) 3月開催)では、本学における電子ジャーナルの契約形態、利用統計、購読費値上がりへの対応について報告し、参加者をはじめ学内の皆様からご意見をいただくことができました (第1回の概要は本センター報2005年5月号およびイントラネットに掲載 http://j-net.jikei.ac.jp/~micer/ejsympo01.htm)。
第2回は、2006年の外国雑誌購読誌選定について、学術雑誌のプリント版から電子版への移行に対応した今後の雑誌購読のあり方も含めて、図書館委員会にて検討していることを報告し、ディスカッションの機会をもつことを目的に開催いたしました。
開催概要
日時: 平成17年 (2005年) 9月12日 (月) 17時30分〜18時30分
場所: 大学1号館6階講堂
参加: 24名
内容:
第1回の報告
1) 平成18年度 (2006年度) 購読雑誌の検討
2) 雑誌購読をめぐる課題−雑誌購読と電子ジャーナル普及への対応−
3) 単行書購入の実状
4) おわりに
お問い合せ先: 学術情報センター 図書館
自動オペレータサービス 03-5400-1200 + 内線2121
電子メール: libsys@ jikei.ac.jp (@の後ろのスペースを削除してください)
1) 平成18年度 (2006年度) 購読雑誌の検討
1. 図書購入予算
図書館の予算の中には、雑誌や単行書を購入するための図書予算があります。表1のように図書予算で購入する雑誌は、プリント版が対象になります。
表1. 図書購入予算 図書予算 電子版の予算 外国雑誌 (プリント版)
国内雑誌
単行書外国雑誌 (電子ジャーナル)
- プリント版と電子ジャーナルは予算が異なる
- 国内雑誌、単行書の購入は外国雑誌(プリント版)と同じ予算
- 外国雑誌購入費用増大のため、国内雑誌や単行書の購入に影響がでている
図1は、平成7年度 (1995年度)〜平成16年度 (2004年度) の10年間の図書予算における雑誌と単行書の割合を示しています。この間の図書予算の伸び率は、10.8%です。
外国雑誌の価格の値上り率は、毎年10%前後のため外国雑誌の図書予算に占める割合が大きくなっています。そのため図書予算は、単純に考えると外国雑誌のプリント版の値上り分を中止していかなければ予算的に不足していく計算になります。しかし、利用状況や利用者の要望を考慮し、ここ数年は必ずしもその値上り分を中止していくことができませんでした。その結果、国内雑誌や単行書の予算を著しく圧迫しています。国内雑誌は、この10年間、平均して図書予算の8%前後を占めていますが、10年前の誌数と比較すると約40誌減少しています。単行書は、外国雑誌の価格高騰の影響を受けて予算が思うように確保できない状況となっています。平成16年度 (2004年度) は、その傾向が顕著に現れています。
図1. 図書予算における雑誌と単行書の割合
外国雑誌価格の高騰は、図書予算内で雑誌や単行書の購入を維持し続けていくことができない、また雑誌と単行書の予算配分のバランスがとれない原因になっています。
2. 本学のコア雑誌
コア雑誌を検討していた平成14年 (2002年) 当時、外国雑誌価格の値上りが続くと、平成19年度 (2007年度) には200誌前後 (現在の半数) しか購入できなくなることが予想されました (図2)。この対策として、平成14年 (2002年) 1月、図書館委員会では「本学の教育・研究・診療に必須である主要な外国雑誌で、今後数年は購入中止の対象とはしない雑誌」として、コア雑誌を選定することになりました。講座・研究室・診療科を対象にアンケート調査を実施し、分野の偏りや漏れがないよう図書館委員会で協議を重ね、平成15年 (2003年) 3月、168誌が選定されました (表2)。
図2. 外国雑誌購入可能タイトル数 (予算額が平成14年度 (2002年度) と同額の場合)
表2. コア雑誌選定までの流れ 年月 選定手順 選定誌数(累積) 平成12年 (2000年) 10月〜
平成13年 (2001年) 11月外国雑誌利用調査 − 平成14年 (2002年) 1月〜2月 第1回・コア雑誌選定のための評価基準アンケート実施
コア雑誌選定評価基準の決定− 平成14年 (2002年) 2月 図書館委員会によるコア雑誌の選定 31誌 平成14年 (2002年) 6月〜8月 第2回・コア雑誌選定のためのアンケート調査実施
コア雑誌94誌決定125誌 平成15年 (2003年) 1月 主題別コア雑誌の分野別再検討および33誌追加 158誌 平成15年 (2003年) 3月 専門分野の研究者によるコア雑誌10誌の追加
コア雑誌168誌選定168誌
コア雑誌のリストは図書館入り口およびホームページに掲載してあります (http://www.jikei.ac.jp/academic/micer/corej.htm)。
3. 平成18年度 (2006年度) 外国雑誌選定
図書購入予算 (1) -1参照) で述べたような状況をふまえ、平成18年度 (2006年度) は、多くの外国雑誌を中止せざるを得ません。購読中止の選定方針などは以下のとおりです。(1) 平成18年度 (2006年度) 外国雑誌購読中止候補の選定方針
1) 「コア雑誌」以外は中止候補とする
コア雑誌 (1) -2参照) は、購読を継続していきます。中止候補は、平成17年 (2005年) 1月より図書館で実施しているプリント版の利用調査(閲覧・貸出・複写)の回数 (1月−6月の集計) を考慮し選定します。利用回数が0回、1回など非常に少ないプリント版 (コア雑誌は除く) は、中止の有力候補となります。
2) 電子ジャーナルを利用できる雑誌はプリント版中止候補とする
従来、雑誌に関しては、電子ジャーナルだけではなくプリント版の維持が必要であるとの要望も寄せられていました。最近では電子ジャーナルの将来のアクセスを保証する出版社も出てきており、電子ジャーナルがあればプリント版がなくても良いのではないかという意見が聞かれるようになってきました。外国雑誌のプリント版を中止することにより、国内雑誌や単行書の購入に充てる予算を増加することができます。また、外国雑誌は、形態は変わりますが電子ジャーナルとして利用できる状態を保つことができます。
(2) 中止候補選定の留意点
雑誌によっては、プリント版の利用回数が0回、1回と少数でも電子ジャーナルの利用回数が100回以上あるものがあります。また、プリント版と電子版を分けて個別に購入することができない雑誌もあります。そのため利用回数だけでは、一概に雑誌の購読を中止にすることはできません。
予算面においても、電子版はプリント版より高価な場合があります。電子版の予算もプリント版を購入する図書予算と同様に限度がありますので、長期的には新たな方針が必要となります。
2) 雑誌購読をめぐる課題 −雑誌購読と電子ジャーナル普及への対応−
平成18年度 (2006年度) の購読外国雑誌の選定方法について図書館委員会で検討されていることを報告してきました。今後は、電子ジャーナル普及に対応した購読誌選定も大きな課題となってきます。
電子ジャーナルは研究室のパソコンからアクセスでき、プリント版のように貸出中や紛失のため利用できないことがないという利点があります。一方、電子ジャーナルの利用は、パソコンとネットワーク環境や出版社との契約内容に影響されるため、将来のアクセスの保証も含め、安定した利用については不安が残ります。
しかしながら、電子ジャーナルの普及は進んでおり、電子ジャーナル利用についての現在の不安は少なくなっていくことが予想されます。学術雑誌の電子ジャーナル化に関して、平成22年 (2010年) には雑誌購読の9割が電子ジャーナルで占められるとの予測もあります (Turner R. Hidden Costs of E-journals. The Serials Librarian 2005; 48(1/2): 215-28)。
今後の電子ジャーナルの導入について、次の点の検討が必要であると考えております。
(1) プリント版と電子ジャーナルの重複購読の見直し
(2) 電子ジャーナル版コア雑誌の検討
現在のコア雑誌はプリント版の購読を継続することを前提としているため、電子ジャーナルでの購読維持が必要な雑誌の選定を進める。
(3) 学内各部署で重複購読している雑誌の電子ジャーナル契約への1本化
複数部署で購読している同一雑誌のプリント版購読を中止し、電子ジャーナルでの利用へ一本化するのが適切な雑誌の選定を検討する。
3) 単行書購入の実状
1. 単行書購入の問題と対策
図3は、単行書の購入冊数を平成12年度 (2000年度) から平成16年度 (2004年度) まで示したものです。和図書と洋図書を合わせた購入冊数は、平成12年度より毎年減少しており平成16年度は平成12年度と比較すると4分の1以下の冊数にまで落ち込んでいます。このような傾向が続くと、教育に必要な最低限の単行書も購入していくことが難しくなります。
単行書の購入冊数が減少している原因は、外国雑誌の価格の高騰です。そのことが図書予算の中で単行書の予算を十分に確保していくことができない状況を作っています。
図書館では図書館委員会と協議し、平成17年度 (2005年度) より限られた予算内で一定レベルの単行書をそろえる必要性から図書分類の分野ごとに洋図書書の基本図書を決め、洋図書はこの基本図書を優先的に購入していくことにしました。洋図書の基本図書の選定は、あらかめ図書館が作成した基本図書候補リストをもとに、図書館委員に協力いただき決定しました。平成17年 (2005年) 7月現在、基本図書が選定されている分野は、15分野 (解剖学・生理学・薬理学・臨床検査・病理学・法医学・公衆衛生・内科学・心臓血管系・血液学・消化器系・精神医学・外科学・産婦人科学・眼科学) です。残りの分野の基本図書についても図書館委員や専門の研究者に協力を願い選定していく予定です。
図3. 単行書購入冊数 (年度比較)
2. 電子ブックの可能性
電子ブックの特徴は大きく3つ挙げることができます。図書館で導入している電子ブックは、学術情報センターのホームページ (イントラ版 http://j-net.jikei.ac.jp/~micer/) のQuick Menuからログインすることができます。現在はOVID社のBooks@OVIDと『今日の診療』を購入しています。
- 分院や医局など学内ランから24時間アクセスが可能
- それぞれのパッケージごとに購入している複数の電子ブックの横断検索が可能
- 内容が随時更新され、プリント版に比べ新しい情報をいち早く入手できる
Books@OVIDでは「Clinical Evidence」(平成19年 (2007年) よりBooks@OvidからBMJに変更)「Harrison’s Principles of Internal Medicine」 「Washington Manual」の3タイトルを購入しています。
『今日の診療』は、「今日の治療指針」「今日の診断指針」「今日の整形外科治療指針」「今日の小児治療指針」「今日の救急治療指針」「臨床検査データブック」「治療薬マニュアル」から成っています。分野や診断・治療・検査などの絞込検索やさらにAND、ORなどの掛け合わせ検索をすることで、より速く目的の内容にたどり着くことができます。
電子ブックに関しては、Monthly Announcement Vol.37 No.6に掲載しますのでご一読ください。
4) おわりに
図書館職員からの報告に引き続き、ディスカッションの時間がもたれ、参加者から次の意見が出されました。購読雑誌選定のためには、教育、研究、診療のために求められる情報利用環境や単行書・雑誌の収集・保存体制といったことを含め、大学における図書館の役割を検討する必要があるとの意見も寄せられています。
- 図書予算の中にプリント版と電子ジャーナルの区別を設けず、雑誌予算という枠組み中でプリント版と電子ジャーナルを適切な割合で購読するほうが、購読費値上がりに対して柔軟に対応できると思われる。
- 雑誌購読予算が限られているなら、購読誌はコア雑誌のみとし、コア雑誌以外に掲載された論文は、他館との協力で至急入手できる体制を整えることも1つの方策と思われる。
- プリント版を中止して電子ジャーナルのみの契約にすると、過去の年代の内容を参照することができなくなるおそれがある。
- 雑誌価格が毎年10%近く値上がりすることが理解できない。電子ジャーナル化への投資も落ち着いてきたと思われるし、著者が負担する投稿費も安くなっておらず、出版社への経済的負担がどの部分で大きくなっているのかを追求する必要があると思われる。
図書館の購読誌の検討は、図書館委員会での検討や学内へのアンケート調査を中心に進めてきました。今後は、利用者の皆様から直接意見を受ける場として「図書館と電子ジャーナル」を定期的に開催したり、このほかイントラネットを利用した情報交換も開始することも考えております。
雑誌購読費の値上がりに対しては、図書館関連団体においても、電子ジャーナルの共同購入による値引き交渉や購読中止した雑誌に掲載されている論文の複写を他館から至急入手するための体制などが検討されています。
今後とも、図書館における雑誌購読と電子ジャーナルの利用環境に関しての活動につきまして報告させていただきますので、ご指摘をいただけたら幸いに存じます。